終活という言葉が一般的になった今、「自分が旅立った後の相続をどうするか」を考えることはごく当たり前となっています。
今回はそのなかでも、「おひとりさまの相続」に注目し、おひとりさま相続の基本と起こりがちな問題点、そしてその解決方法を解説していきます。
おひとりさま相続の基本
男性の生涯未婚率が23パーセントを超え、女性も14パーセントを超えた今、「おひとりさまの状態で生涯を終える人」の数は決して少なくないといえます。ここにさらに、「結婚歴はあるけれど、子どもがいない状態で離婚した層」を加えれば、その数はもっと増えることでしょう。
おひとりさま相続の場合でも、法定相続人(民法の定めにより、人が亡くなったときにその財産を引き継げる人。遺書などがあれば例外となるが、特にない場合は法定相続人で分割して相続することになる。また遺書でほかの人が相続人と指定された場合でも、遺留分が認められる)がいればその人に遺産がいくことになります。
結婚をしておらず、かつ子どもがいない場合、父や母などの直系尊属が遺産相続順位の1位となります。直系尊属がいない場合は、お一人様兄弟姉妹が引き継ぐことになります。「親も兄弟姉妹も全員他界している」という場合は、甥や姪が相続人となります。
なおここではこれ以降は、「現在配偶者がおらず、子どもを持った経験もない人」を想定して解説していきます。
おひとりさま相続にはさまざまな難しさがある
この基本を踏まえて、「おひとりさま相続で起きがちな問題点」に目を向けていきましょう。
おひとりさま相続で起きがちな問題点として、以下の3つが挙げられます。
・財産の状況が不明瞭になりやすい
・法定相続人との関係が薄いことも多い
・相続人間での連絡の取り合いが難しい
1つずつみていきましょう。
1.財産の状況が不明瞭になりやすい
おひとりさま相続でよく問題になるのが、「亡くなった人の財産の状況が把握できないこと」です。
動産・不動産の書類がどこにあるかわからないというケースもありますし、そもそも本人がしっかりと把握していなかったというケースもあり得ます。
特に困るのが、「デジタル遺品」です。パスワードなどは人に共有するものではありませんし、おひとりさまの場合は基本的にほかの人とアカウントを共有することもありません。またおひとりさまで暮らしてきた人のサブスクなどの加入状況を、ほかの人が把握している可能性は極めて低いといえるでしょう。
さらに、正の遺産だけではなく負の遺産があることも考えられますが、この負の遺産の状況を把握しにくいのも大きな問題です。法定相続人がこの負の遺産の存在を把握しきれずに単純承認してしまった場合、負の遺産までをも引き継ぐことになるからです。
ちなみに、「法定相続人や、財産を受け継がせたい相手がいない」というケースの場合、家庭裁判所によって「相続財産管理人」が選定されます。2か月以内に相続人が出てこなかった場合は、
・債務があった場合は債権者に
・亡くなった人の面倒を看ていたり、生計が同じであったりした人がいた場合はその人に
・それもいなかった場合は、国に
というかたちで遺産が分配されます。
2.法定相続人との関係が薄いことも多い
「両親が亡くなった後は、兄弟姉妹との関係も希薄になった」「兄弟姉妹とまではかろうじて連絡をとりあっていたが、甥や姪に会ったのは10年前が最後」というケースも多いのではないでしょうか。
また亡くなる前に認知症などを患っていた場合は、「自分が終活を行っていること」自体を共有できないこともあります。このため、相続の手続きが遅れる事態に至ることもあります。
これが原因で上でも述べたように、負の財産も含めてすべて相続するというかたちの「単純承認」になってしまい、法定相続人が借財を背負う可能性すらあり得ます。
3.相続人間での連絡の取り合いが難しい
故人が遺言書を作っていなかった場合、残された財産は法定相続人全員で話し合って分割することになります。
しかし一人で生きてきた人の場合、上でも述べたように法定相続人との関係が非常に希薄になってしまっていることもよくあります。また、「法定相続人同士はほぼ没交渉状態である」というケースも考えられます。
このような場合、「法定相続人全員で話し合って遺産を分割すること」が難しくなります。さらにこれをきっかけとして、親族間でもめ事が起こる可能性も否定できません。
おひとりさま相続のトラブルを防ぐために
ではこのようなおひとりさま相続のトラブルを防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか。
その方法を解説していきます。
1.遺言書を作成する
遺言書は、遺産の相続を考える際に非常に重要になるものです。血のつながらない他人であっても「この人に残したい」と記せば、その人に遺産を渡すことができます(ただし法定相続人が申し立てを行った場合、遺留分が法定相続人のものとなります)。
また遺産の相続対象は、「人間」だけにとどまりません。NPO法人などの「団体」を対象とすることもできます。
ただし遺言書は、決められた方式できちんと記さなければなりません。遺言書自体は個人でも作成できますが、この方式を守っていないと無効となります。このため、弁護士などを監修の下で作成していく方が安全です。
なおエンディングノートは、連絡先や遺産の分割方法の希望を記すことはできますが、法的な拘束力は持ちません。
2.任意後見契約を結ぶ
任意後見契約とは、「自分自身に十分な判断力があるうちに、後見人を選び契約すること」を示す言葉です。
認知症になるなどして自分のことを自分で判断できなくなった場合、この後見人が財産管理や看護を担ってくれます。またこの任意後見人は、裁判所の選んだ任意後見監督人の監督を受けるため、「任意後見人が財産を自分勝手に食いつぶす」などのような危険もありません。
ちなみに任意後見人として指定できるのは、
・未成年者ではない
・近しい親族(直系の血族や兄弟姉妹)ではない
・破産していない
・任意後見人を解任された者ではない
・被後見人(この場合は「本人」に対して訴訟を起こした者ではない)
・行方不明者ではない
の条件をクリアできる人間です。現在では、信頼できる友人や法的資格(弁護士など)を持つ人が指定されるケースが多いといえます。
おひとりさまの相続は、おひとりさま以外の相続とはまた異なった難しさを持つものです。
しっかり対策をしておきたいものですね。