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人生の集大成としての寄付 – 生前と死後の税金の違いを考える

寄付と税金

私たちの人生において、社会への恩返しや次世代への貢献を考える時期が訪れます。その方法の一つが寄付です。しかし、寄付には様々な形があり、特に生前の寄付と死後の寄付(遺贈寄付)では、税金面で違いが生じます。 

この記事では、両者の違いを詳しく解説し、あなたにとってより適切な寄付の形を見つける手助けをします。 

1. 死後の寄付(遺贈寄付)と生前の寄付の違いとは

死後の寄付、すなわち遺贈寄付は、遺言書などで指定した財産を、個人の死後に特定の団体や機関に寄付することを指します。一方、生前の寄付は文字通り、生きている間に行う寄付のことです。

両者には、税金面でどのような違いがあるのでしょうか。 

2. 死後の寄付(遺贈寄付)に関わる税金 

遺贈寄付に関しては、主に「相続税」と「所得税」が関係してきます。

2.1 相続税について 

相続税は、個人が亡くなり、その財産を相続人が受け継ぐ際に課される税金です。相続税には基礎控除があり、その計算方法は次の通りです: 

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数) 

例えば、法定相続人が配偶者と2人の子供の場合、基礎控除額は以下のように計算されます: 

3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円 

この場合、遺産総額が4,800万円を超える部分に対して相続税が課されることになります。 

ただし、実際の相続税額の計算はもう少し複雑です。債務や葬式費用などは控除され、相続開始前3年以内の贈与財産や生命保険金などは加算されるため、最終的な課税対象となる金額は変動する可能性があります。 

相続税の申告と納税は、個人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。 

2.2 所得税について 

所得税は通常、1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得に対して計算され、翌年の3月15日までに確定申告と納税を行います。 

しかし、個人が年の途中で亡くなった場合、その年の1月1日から死亡日までの所得に対する税金を計算し、相続開始から4ヶ月以内に相続人が故人に代わって申告と納税を行わなければなりません。これを「準確定申告」と呼びます。 

2.3 遺贈寄付による税金の変化 

遺言書による遺贈寄付を行う場合、個人が遺贈を望んだ寄付先が国、地方公共団体、認定NPO法人などの特定の団体であれば、寄付金控除(所得控除)または寄附金特別控除(税額控除)を受けることができます。 

どちらの控除方式を選択するかは、個人の課税所得金額と寄付額によって変わります。一般的には、所得が比較的低い人にとっては税額控除の方が有利になる傾向がありますが、これはケースバイケースです。特に、課税所得金額や寄付額が大きい場合は、税理士などの専門家に相談して最適な方法を選択することをお勧めします。

3. 生前の寄付に関わる税金 

生前の寄付の場合、個人がまだ存命中であるため、「相続税」は当然関係ありません。その年の1月1日から12月31日までに生じた所得の確定申告を行い、「所得税」を納税する義務があります。 

生前の寄付でも、寄付先が認定されている団体であれば、所得控除または税額控除を受けることができます。控除の計算方法は遺贈寄付と同じですが、生前の寄付の場合は毎年の確定申告時に控除を受けることができるという利点があります。 

4. 生前の寄付と死後の遺贈寄付の選択 

どちらの寄付方法を選択するかは、個人の価値観や生活状況によって大きく異なります。以下のポイントを考慮して、自分に合った方法を選びましょう。 

生前の寄付が適している場合 

  • 生きている間に社会貢献の実感を得たい
  • 寄付先の活動を直接確認したい
  • 寄付による社会的なリターンを体験したい
  • 毎年の所得税控除を活用したい 

このような考えを持つ人には、生活に支障が出ない範囲で、所得税の控除分程度を毎年寄付することをお勧めします。

死後の遺贈寄付が適している場合

  • 生きている間の生活資金を十分に確保したい
  • 死後にまとまった金額を社会に還元したい
  • 法の範囲で相続税の軽減を考えている 

このような考えを持つ人には、遺言書などで遺贈寄付を指定することをお勧めします。 

どちらを選ぶにしろ、寄附金控除は対象となる国、地方公共団体、認定NPO法人などの特定の団体でないと認められないので、寄付先の選定は慎重に行いましょう。

5. 寄付の組み合わせプランも可能 

実際には、生前の寄付と死後の遺贈寄付を組み合わせることも可能です。例えば、生前に少額の寄付を継続しながら、遺言書で遺贈寄付も指定するという方法があります。これにより、生きている間の社会貢献の実感と、死後の大きな貢献の両方を実現できます。 

6. 寄付の意義を深く考える 

寄付を考える際、単に税金面での利点だけでなく、自分の人生観や価値観に沿った形で社会に貢献できるかを考えることが重要です。次のような問いかけをしてみましょう。

  • 自分の人生で得た恩恵を、どのような形で社会に還元したいか? 
  • どのような分野や活動に最も関心があるか? 
  • 寄付を通じて、どのような社会の変化を願っているのか? 

これらの問いに向き合うことで、より深い満足感と社会貢献の実感を得られる寄付の形を見つけることができるでしょう。

7. 専門家のアドバイスを受ける重要性 

寄付、特に高額の寄付や遺贈寄付を考える場合、税理士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。不動産を所有している場合も、残される遺族がトラブルや不満を抱えないように、早めに相続対策を進めることが重要です。 

彼らは、あなたの財務状況や希望を踏まえて、最適な寄付の方法や税金対策を提案してくれるでしょう。また、遺言書の作成や相続に関する法的なアドバイスも得られます。 

生前の寄付と死後の遺贈寄付、どちらを選択するか、あるいは両方を組み合わせるかは、あなたの人生観、財務状況、そして社会貢献への思いによって決まります。 

重要なのは、寄付を通じて自分の人生の集大成としての意味を見出し、社会にポジティブな影響を与えられることです。税金面での利点は確かに重要ですが、それ以上に、あなたの思いや価値観が反映された寄付こそが、真の満足感をもたらすでしょう。 

自分の人生を振り返り、社会との関わりを深く考えることで、あなたにとって最も意義深い寄付の形が見えてくるはずです。そして、その選択が次の世代へとつながる大切な贈り物となるのです。 

寄付は、単なる金銭の移動ではありません。それは、あなたの人生の価値観や経験を社会に還元する、尊い行為なのです。慎重に、そして前向きに寄付について考え、あなたらしい社会貢献の形を見つけてください。それが、あなたの人生に新たな意味と喜びをもたらすことでしょう。 

鵜尾雅隆, 齋藤弘道, 芝池俊輝, 樽本哲, 山北洋二, 脇坂誠也(著)「遺贈寄付ハンドブック [改訂第2版] 遺贈寄付を受ける団体や相談を受ける人が知っておきたい大事なこと」 特定非営利活動法人 日本ファンドレイジング協会 2022年3月発行