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相続した土地を国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」の詳細と活用メリット、相続放棄との違いを解説



「遺産」「親が残していった土地」というと、多くの人が「プラスのもの」「財産的な価値のあるもの」を想像します。しかし実際には、マイナスの遺産であったり、扱いが難しい財産であったりする場合もあります。

今回はその対処方法として、「相続土地国庫帰属制度」について取り上げます。

※親以外の人から遺産として土地を引き継ぐこともありますが、ここでは分かりやすくするために、特段の事情がない限りは「親から遺産として土地を引き継いだ場合」を想定してお話します。

相続土地国庫帰属制度とは、引き継いだ土地を国に渡すことのできる制度のこと

「相続土地国庫帰属制度」とは、相続した土地を国に渡すことができる制度のことをいいます。

「親が亡くなったことによって受け継いだ土地」という言葉を聞いた時、多くの人は「プラスの遺産である」と考えるでしょう。

しかし実際には、「プラスどころかマイナスの性質を多く持つ土地であること」もありえます。

たとえば、

・活用することが難しいほど田舎にある野山

・自分が帰る予定のない場所の土地であり、かつ売却をしようとしても買い手がつかないような土地

・だれかに貸そうとしても、借り手がつかないほどに場所が悪い土地

などが考えられます。

このような土地は、売却できず・利用価値がなく・人に貸すこともできない「お荷物」の土地だといえます。

しかし「土地」であるため、持ち続けていれば固定資産税がかかり続けます。また、自分が手入れに訪れることの難しい土地であるのなら、その土地の管理費用も出さなければなりません。放置しておけば土地が荒れ果てて、近隣の人に迷惑をかけてしまうからです。加えて、良からぬ人がその土地に勝手に住み着いてしまい、トラブルに発展する可能性すらもあります。

このような状況に陥るのを防ぐための制度が、「相続土地国庫帰属制度」です。

相続土地国庫帰属制度 を利用することのメリット~相続放棄との違い〜

相続土地国庫帰属制度を利用すれば、自分の持っている不要な土地を国に渡すことができます。そのため、固定資産税や管理費用を捻出する必要がなくなります。また所有者も国になるため、トラブルが起きた場合であっても、自分たちで対応しなくてもよくなります。そのため、「売れない・利用価値のない・人に貸せない土地」の管理義務から解放されます。

この「相続土地国庫帰属制度」をより深く理解するためには、「相続放棄との違い」についても知っておく必要があります。

相続土地国庫帰属制度も相続放棄も、「相続した土地を手放し、固定資産税や管理費用の支払いおよび管理義務から解放される制度である」という点では共通しています。

しかしこの2つには、大きな違いがあります。

それが、「相続土地国庫帰属制度を利用する場合は特定の土地だけを手放せるが、相続放棄の場合はすべての資産を手放すことになる」という点です。

たとえば、下記のような家族構成および財産状況であったと仮定します。

父親…今回亡くなった

母親…すでに他界済み

長男A…一人っ子

父親が残した預貯金が100万円、利用価値の高い都心部の土地B(1000万円)とC(1500万円)と、利用価値がほぼない土地Dがある。遺言書などはなく、ほかに相続人がいない。

この場合、Aは100万円と、土地B・土地C・土地Dのすべてを相続することになります。

そして土地Dを引き継ぎたくないとなった場合、Aは「相続土地国庫帰属制度」もしくは「相続放棄」を選ぶことになります。

相続放棄を選んだ場合、Aはたしかに土地Dを手放すことができます。しかし同時に、預貯金100万円と、土地B・土地Cも相続放棄することになります。つまり、Aの手元には何も残りません。なお、「Aもまた生涯独身・子なしであり、かつ遺産を引き継ぐ相手を指定しなかった」という場合は、Aの持っていた財産は最終的には国庫に帰属することになります。

対して相続土地国庫帰属制度を利用することになった場合、Aは土地Dだけを手放し、預貯金100万円と土地B・土地Cを手元に残すことができるようになります。

なおここでは「一人っ子であり、ほかに相続人がいない状況」を想定していますが、兄弟姉妹などのほかの相続人がいる場合は、Aが相続放棄をすれば預貯金・土地B・土地C・土地Dはほかの相続人にわたることになります。

対して相続土地国庫帰属制度を利用した場合、土地Dだけを選択的に手放すことになるため、預貯金と土地B・土地Cは相続人同士で分け合うことになります。

ちなみに、相続放棄ができる期間は「相続があったと知ってから3か月以内」と決められています。対して、相続土地国庫帰属制度の利用には期間の制限がありません。

また、相続放棄の場合、それほど費用はかかりませんが、相続土地国庫帰属制度の利用の場合は費用がかさみがちである点にも注意しましょう(※相続土地国庫帰属制度利用時の費用の詳細は後述します)。

 手放す財産の範囲費用期間土地Dはだれのものになるか
相続放棄預貯金・借金・他の土地も含めてすべて3000円~5000円程度、専門家に頼む場合は別途依頼料相続があったと知ってから3か月以内ほかの相続人がいれば、ほかの相続人が引き継ぐ
相続土地国庫帰属制度自分が手放したいと考える土地のみ20万円~※後述いつでも

相続土地国庫帰属制度の背景、対象となる土地や審査手数料について

相続土地国庫帰属制度は、「所有者不明の土地を少なくするため」などの理由で創設された制度です。ただしこれは、「どんな土地でも必ず国に引き渡せる」という制度ではない点には注意が必要です。

たとえば、建物がある土地の場合はこの相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。また担保権が設定されていたり、ほかの人が利用していたり、土壌が汚染されていたりする土地も引き受けてもらえません。なお、「境界線があいまいであり、ほかの人と争いが起きている」という土地も、申請の段階で却下されます。

なお相続土地国庫帰属制度は、「管理をするのが大変な土地であるから」という理由で利用する人も多いものですが、「土地の形状が悪く、土地の管理にお金がかかりすぎる土地」「有体物(木や自動車など)がある土地、あるいはそれらが土の下にあって処分しなければならない土地」などの場合は、相続土地国庫帰属制度を利用することができません。そのため、「自分たちで管理することが非常に面倒くさい土地なので、面倒事もまとめて国に引き受けてもらいたい」という理由の場合は認められない可能性が高いとえいます。

さらに、相続土地国庫帰属制度を利用するにはお金がかかることも覚えておきましょう。

まず審査費用として14000円がかかりますし、承認された場合でも20万円以上の費用がかかることになります。場合によっては、「自分の土地を手放し、国に明け渡す」という性質のものであるのに、負担金が100万円を超えることすらあります。

この「相続土地国庫帰属制度」は、2024年の4月1日から義務化された「相続登記」とも関係性が深いものです。不動産取得時から3年以内に相続登記をしなければ10万円の過料が科せられるとした相続登記の義務化は、「相続登記をした後の土地をどうするか」の解決策のうちのひとつである相続土地国庫帰属制度と合わせて考えていくべきものです。

「相続する土地」「遺産」は、必ずしもプラスのものばかりであるとは限りません。

そのため、「使いどころのない遺産、マイナスの遺産をどのようにするべきか」はきちんと精査していく必要があるでしょう。