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亡くなった人の預貯金口座の扱い方と、遺産分割前の預貯金引き出し方法や注意点をわかりやすく解説

家族が亡くなった場合、亡くなった人の口座から預貯金を引き出すと罪に問われると聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか?

実際には必ずしも違法というわけではありません。しかし他の相続人に黙って引き出してしまうと後々トラブルになる可能性があるため注意が必要です。

本記事では、家族が亡くなった場合の銀行口座がどうなるか、また引き出しても違法にならない場合などについてご紹介します。

亡くなった人の口座や貯金はどうなるか

金融機関は預けている人が亡くなったことがわかると、その預貯金者名義の口座を凍結します。そのためお金を引き出すことや、振り込み、引き落とし口座に設定していた場合、引き落としもできなくなります。なお口座凍結には消滅時効があり、銀行が5年、信用金庫や信用組合が10年となるため覚えておくようにしましょう。

金融機関が口座を凍結する理由は、相続を確定させるためです。相続が確定すれば凍結が解除され、口座の名義を変更したり、解約したりすることができ、そこで預貯金を引き出せます。

ただし金融機関は、死亡届を提出された市区役所や町村役場の情報が共有されるわけではなく、親族などが直接金融機関に亡くなったことを伝えることで凍結されます。つまり親族などが知らせなければ、キャッシュカードなどを使って預貯金を引き出すことができてしまいます。

死後に預貯金を引き出しても問題がない場合

亡くなった人名義の預貯金は、原則として相続人全員の共有になります。相続人全員で行う遺産分割協議をした上で、預貯金を引き出せます。ただし一部の相続人だけでも、亡くなった人の口座から預貯金を引き出しても問題がないケースがあります。

遺言書に基づいて預貯金を引き出す

遺言書が作成されており、特定の相続人に特定の銀行口座を相続させることなどが明記されている場合、遺産分割協議を行う必要がなくなるため単独で預貯金を引き出すことが可能です。なお銀行口座を相続するため、その後亡くなった人名義から相続人に名義変更するか、口座を解約するかを選択することになるでしょう。

預貯金の仮払制度を利用する

2019年7月に改正民法が施行され、主に相続に関する部分が改正されました。今までは遺産分割前に預貯金の一部を引き出すことができなかったものに対して、一部を払い戻しできる「預貯金の仮払制度」が制定されています。

預貯金の仮払制度によって、金融機関ごとに、「死亡時の預貯金残高×3分の1×法定相続分」または150万円のうち低い方の金額を引き出せるようになりました。引き出せるようになった理由は、当面の必要生活費や、平均的な葬式費用などから勘案した限度額とされています。

例えば、預貯金が150万円であれば、「150万円×3分の1×法定相続分(配偶者1/2)」だった場合、25万円です。そのため150万円より低い25万円であれば引き出すことが可能です。

家庭裁判所で仮処分が認められる

預貯金の仮払制度を利用しても150万円またはそれよりも低い金額となるため、それ以上に葬儀などで金額が必要な場合に対応できません。

しかし家庭裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を認めてもらうことで、預貯金の全部または一部を引き出すことが可能です。

「預貯金債権の仮分割の仮処分」を認めてもらうにあたって、次の要件を満たす必要があります。

・遺産分割の審判または調停が家庭裁判所に申し立てられている
・相続人が、相続財産の中にある債務の弁済や、相続人の生活費などの事情により、預貯金を払い戻す必要があると家庭裁判所に認められている
・他の相続人の利益を侵害していない

なお必要性の判断については、家庭裁判所の裁量となるため、必ずしも根拠法である家事事件手続法第200条第3項の規定に例示されている理由に限らないため注意が必要です。

死後に預貯金を引き出したらトラブルになる場合

遺言書に基づいて預貯金を引き出す場合や、預貯金の仮払制度を利用する場合であればトラブルになることはないでしょう。もし正しい手順を踏まずに預貯金を引き出してしまうと、他の相続人とトラブルになる可能性もあるため注意が必要です。

他の相続人に黙って預貯金を引き出す

亡くなった人と同居していた家族の場合、生前からお金の管理をお願いされていたり、口座から預貯金を引き出してくるように頼まれたりすることもあったでしょう。その場合、他の相続人に黙って、葬儀費用などの費用に充てるために口座から引き出していることも少なくはありません。

しかし他の相続人から見れば、黙って預貯金を引き出していると、不正に引き出しているのではないかと疑念を抱くこともあるため注意が必要です。

法定相続分を超えて預貯金を引き出す

相続人には法定相続分があるため、1人の相続人が預貯金を引き出したとしても法定相続分の範囲内であれば、他の相続人は先払いを受けていると考えるためトラブルに発展することは少ないといえます。しかし法定相続分を超えて、預貯金を引き出した場合、他の相続人から見れば、なぜそこまで引き出す必要があるのか、また返金はしてくれるのかなど追及される可能性もあり、トラブルになりやすいでしょう。

もし葬儀費用などで大きな金額がかかるとしても、必要最低限の金額に留めて、また必ず他の相続人に対して説明できるようにすると良いです。

預貯金を引き出したことを他の相続人に隠す

もし亡くなった人の口座から預貯金を引き出していることを他の相続人に隠していれば、さまざまな疑念からトラブルに発展する可能性があります。引き出している本人としても勝手に預貯金を引き出したことを負い目に感じることがあるでしょう。

しかし預貯金を引き出していたことを隠したことで、生前のうちから勝手に引き出していたのではないかといった疑いがもたれることがあります。亡くなった人の口座から引き出したことは、自身で早い段階のうちに他の相続人に説明し、使った内容も話せるようにしておくと良いです。

まとめ

家族が亡くなった場合、葬儀費用などの大きな費用を自身で準備することは難しい場合が多く、亡くなった人の預貯金で支払いなどをしたいと思うでしょう。2019年の改正民法によって一定金額は、仮払いとして引き出せるようになりました。そのため安心して引き出す人も多くなったといえます。

しかし亡くなった人の銀行口座から引き出す場合、必ず他の相続人にも了解を得てから行うことをおすすめします。これまでご紹介したようにあらぬ疑惑が生まれてトラブルに発展することがあるためです。トラブルを未然に防ぐために事情を説明すれば納得してくれることでしょう。