「金融財産」は、一つだけではありません。現金のように「わかりやすい」財産だけを持っている人もいますが、預貯金や証券、信託などで管理している人もいることでしょう。
今回は「証券」について取り上げます。
そもそも「証券」とは何か
私たちが当たり前に使っている「証券」という言葉ですが、これを具体的かつ正しく詳細に説明できる人は、そう多くはないかもしれません。
「証券」とは、財産に関わる法律上での義務や権利を記した紙のことをいいます。たとえば、小切手や株券などがこの「証券」の代表例であるといえます。また、商売を行うときにしばしば利用される手形も、この「証券」に分類されます。
金融財産の運用などしたり、商売をしたりしている人にとっては、証券は非常になじみ深いものでしょう。
人が亡くなると、相続人あるいは故人に指定された人は、亡くなった人の財産を受け継ぐことになります。この「財産」には、現金や不動産はもちろん、上記で挙げた株なども含まれます。
ではこのような取引がある場合は、受け取り手側はどのようにして手続きをしていけばいいのでしょうか。
証券口座の開設が必要となる
故人が証券口座を持っていた場合、それをそのまま受け取り手側が運用できるわけではありません。故人の証券口座から、受け取り手側の口座に株券などを移す必要があります。
「もともと故人と同じ証券会社の口座を持っていた」という場合は話が早いのですが、そうではない場合、財産を引き継ぐために新たに証券会社の口座を開かなければならなくなります。なお、「故人の財産を引き継ぐためだけに、新たに証券口座を開く」という場合は、故人が利用していた証券会社と同じ証券会社を利用して、証券口座を開く方が良いでしょう。違う証券会社で口座を開いた場合、手続きがスムーズにいかないこともあります。
なお、証券会社の方でもこのような状況は当然想定していますから、「どのように進めたらいいか」についてはある程度説明をしてもらえるはずです。また、「自分で行うのが難しい」感じる人は、専門家に依頼してもよいでしょう。証券会社の方で、別途「遺産整理を手伝います」としてサービスを提供している場合もあります。
証券を相続するには、
1.まずは、亡くなった人の口座情報を照会する
2.必要な書類の有無を確認する。またこの段階で、上述した「受け取り手側の口座の開設」を行う
3.そののち、証券会社に必要な書類を提出する
4.証券会社により、振替が行われる
という手順を踏む必要があります。
これらは全自動で行われるわけではありません。「受け取り手側が連絡をし、口座を開設する」という手続きが必要になる点には注意してください。
金融財産を相続する場合の問題点を考える
相続人が複数いた場合、株式(証券)や不動産をどのようにして分けるか? が問題となります。
現金・預貯金の場合は非常にシンプルで、総額を定められた割合で割って受け取れば事足ります。
しかし株式(証券)や不動産は、単純に分割できるものではありません。
「株式(証券)がありそれを引き継ぐことになったが、相続人同士で分配したい」という場合は、一度株を売却し、得た金額を全員で分けるのがもっとも簡単なやり方です。非常に公平な分割方法となるので、不満が出る可能性も低いといえるでしょう。
なお相続には「税金」が絡んできますが、控除などがあるときは、その後に出た金額を割るのが望ましいといえます。
「まだまだ値上がりしそうな株なので、今手放すのはもったいない」と考える人もいるかもしれません。
その場合は、売却をせず、そのまま引き継ぐことも可能です。たとえば、「配偶者がいて、子どもが2人いて、ほかに相続人がおらず、株は1000株ある」という場合は、配偶者が500株、子ども1が250株、子ども2が250株引き継ぐ……というやり方がとれます。
また、「複数の会社の株を持っており、A社の株・B社の株・C社の株がある」といったケースの場合は、配偶者がA社の、子ども1がB社の、子ども2がC社の株を引き継ぐなどのように、「銘柄で分けて相続するやり方」を取ることもできます。なおこのやり方を取った場合、証券会社に申告を行う必要があります。また申告後に修正を行うことはできませんから、しっかりと協議をしておく必要があるでしょう。
ほかのやり方として、「配偶者がすべての株式(証券)を引き継ぐ。その代わり、配偶者は子ども1と子ども2に対して、割合に応じた現金を支払う」というやり方を行うこともできます。なおこのときの株価をいくらに設定するかについては、相続人同士の話し合いで決められます。
「相続の手続きが終わった後に株価が大幅に下がる。あるいは上がる」という可能性は十分に考えられますが、それを正確に読みきることは不可能です。そのため、基本的には、相続の話し合いを持った日の株価を基準にして算定する方法が取られます。
株式(証券)の相続は、現金や預貯金とはまた違った難しさを持ちます。それを把握したうえで、円滑に進めていきたいものですね。