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ペットは相続財産になる? 法律上のペットの価値を考える

飼い主にとって、ペットは非常に愛しい存在です。家族として一緒に暮らし、多くの喜びと悲しみを共にしてきたこのペットに対して、「自分(飼い主)の死亡後も幸せでいてほしい」と願うことは、ごく自然な心の動きだといえます。

そのような気持ちに沿うべく、こちらの記事では「飼い主が息を引き取った後のペットの世話を、どのようにして人に託すか」「ペットに遺産を渡せるか、渡せないのであれば遺産を利用してペットの面倒を人にみさせられるか」について解説してきました。

ここからは視点を変えて、「遺産としてのペットの価値」について解説していきます。

ペットも遺産の一部となる

心情的には納得しがたいと人も多くいるかと思われますが、ペットは法律上では「物」として扱われます。たとえば、交通事故で人をはねてしまったり人にぶつかったりすると人身事故と判断されますが、ペットをはねたりペットにぶつけたりしても物損事故と判断されます。

このような性質を持つため、「飼い主が亡くなった後のペット」もまた、「物」として、遺産のひとつとして扱われます。

「ペットに資産的な価値があると認められる」ということに違和感を抱く人も多いかと思われますが、ペットの種類によっては高い資産価値を持つものもいます。たとえば、古代魚であるアロワナや、オウムの一種であるアカオクロオウム、スピッツなどの元祖であるサモエドなどは非常に高価です。数十万円するものも決して珍しくなく、場合によっては200万円を超えるものさえあります。もちろんペットへの愛情は「値段」で決まるものではありませんが、ペットの種類によっては資産的な価値があることを教えてくれる例だといえます。

このような資産的な価値を持つペットを飼っていた人が亡くなった場合、「だれがペットを引き取るか」「そもそも遺産を引き継ぎたくない場合は、ペットはどうすればよいのか」が問題になってきます。

ペットを引き取ると「相続を承認したこと」になるのか、それともならないのか

「ペットには資産的な価値が生じる可能性がある」「ペットは遺産の一部であると考えられる」と解説してきました。ここからは「相続をする側」の視点から、実際の相続の状況について解説していきます。

相続をする場面に至った場合、相続人が取れる方法は以下の3つがあります。

1.単純承認

2.相続放棄

3.限定承認

それぞれ解説していきます。

1.単純承認

もっとも一般的なのが、この「単純承認」です。これは、「故人の残したものならば、マイナスの財産もプラスの財産もすべて引き継ぐ」という方法です。

特別な手続きもなく手続き期限も設定されていないため、「相続放棄」あるいは「限定承認」の手続きをとらない限りは、この「単純承認」のかたちをとることになります。

プラスの財産だけしかない場合は問題はないのですが、マイナスの財産があるときにこの方法を取ってしまうと、相続人に大きな経済的負担がのしかかることは注意しなければなりません。また「被相続人の財産を使ったり処分したりした場合」は、「単純承認をした」とみなされます。

2.相続放棄

すべての相続を放棄する方法です。この場合は、「相続が開始されたことを知ってから、3か月以内」に手続きをしなければなりません。

この方法を選ぶと、マイナスの遺産もプラスの遺産もすべて放棄することになります。そのため、マイナスの遺産の方が多い場合には有効な選択肢となりえます。

3.限定承認

「一部の財産のみを受け継ぎ、それ以外の財産を受け継がない」という方法です。プラスの遺産の範囲内で相続できるので、非常に有用な方法です。

ただこの限定承認は手続きが非常に煩雑であり、手続きの完了まで数年かかることもあります。また、ほかの2つの方法は相続人個人の判断で選ぶことができますが、限定承認の場合は相続人全員の合意が必要です。

ペットの相続において特に関わりが深いのが、「単純承認」と「相続放棄」です。

単純承認のところで、「被相続人の財産を使ったり処分したりした場合」としました。この考え方に従えば、「被相続人が死亡してばたついていて、だれもペットの面倒をみられない。すべてが決まるまで、ペットを自宅で引き取った人」は「被相続人の財産(ペット)を処分した(引き取った)」と判断されて、相続放棄ができなくなってしまいます。特に、そのペットに資産的な価値があった場合はこのように解釈される可能性は高くなるといえます。

ただ心情的な面からすれば、「だれも面倒をみられないペットを、相続の話がまとまるまで預かっているという行動」は非常に理解しやすいことだといえます。

また「ペットが死なないようにエサをあげていた」程度の行動の場合は、「ペットを管理保全していただけである」と判断されることが多いといえます。

そのため、実際の現場では「飼い主の死後にペットの面倒を見ていただけ」の状況であるのなら、相続放棄が認められなくなる可能性は低いと考えられます。

もっとも、判断は個別の事例によって異なります。そのため、「ペットを引き取ったしペットの面倒はこれから先も見ていくつもりだ。しかしマイナスの遺産が多いので、これに関しては相続放棄をしたい」と考える場合は、早めに相談することをおすすめします。