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遺贈寄付:人生の最後に託す、未来への希望


遺贈寄付

私たちの多くは、「寄付」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。困っている人々や社会課題の解決のために、自らの意志で財産の一部を提供する行為です。では、「遺贈」という言葉はいかがでしょうか?この二つの概念が融合した「遺贈寄付」が、近年注目を集めています。 

遺贈寄付とは何か 

遺贈寄付とは、簡潔に言えば、個人が亡くなった後に、その遺産の一部または全額を特定の団体、自治体、あるいは個人に譲り渡す相続方法の一種です。これは単なる財産の移転ではなく、自身の想いや価値観を未来に託す、意義深い行為といえるでしょう。 

近年、この遺贈寄付を検討する人々が増加傾向にあります。興味深いことに、40歳以上の男女の約21%、つまり5人に1人が遺贈に対して前向きな姿勢を示しているというデータがあります。この数字は、私たちの社会における価値観の変化を如実に表しているといえるでしょう。 

なぜ遺贈寄付が注目されているのか 

日本社会全体が急速に高齢化する中、私たちを取り巻く社会課題は複雑化し、その解決に必要な資金を税金だけでまかなうことが困難になってきています。このような状況下で、多くの方々が「お世話になった日本のため」「地域社会のため」「困っている人々のため」という思いから、遺贈寄付という形で社会貢献を選択するようになってきました。 

これは単なる財産の移転ではなく、自分の人生の集大成として、社会に対する感謝の気持ちを形にする行為とも言えるでしょう。遺贈寄付は、個人の想いを社会の未来につなげる架け橋となっているのです。 

遺贈寄付の3つの形態 

遺贈寄付には、主に以下の3つの形態があります。

  • 遺言による寄付(遺贈)
  • 相続財産の寄付 
  • 契約による寄付 

それぞれの特徴を見ていきましょう。 

1. 遺言による寄付(遺贈) 

通常、個人が亡くなった場合、その財産は法定相続人に移転します。しかし、生前に正式な遺言書を作成することで、法定相続人以外の民間非営利団体、自治体、個人に対しても無償で財産を寄付することができます。 

この方法の特徴は、寄付者が亡くなった本人自身となることです。つまり、自分の意思を最も直接的に反映させることができる方法といえるでしょう。 

遺言による寄付には金額の制限がありません。1万円という少額でも、あるいは全財産を寄付するということも可能です。重要なのは、自分の想いをしっかりと伝えることです。 

2. 相続財産の寄付 

正式な遺言書がない場合でも、故人の意思を尊重して相続人が寄付を行うことができます。これは、手紙やエンディングノート、あるいは生前の口頭での伝達など、様々な形で故人が寄付の意思を示していた場合に選択されることが多いでしょう。 

この方法では、相続人が寄付者となります。つまり、最終的な寄付の決定権は相続人にあります。故人の意思を尊重しつつも、相続人の判断が重要になってくるのです。 

3. 契約による寄付 

銀行の信託や生命保険会社の仕組みを利用して、契約を通じて寄付を行う方法もあります。この場合、信託商品なら個人と信託契約を結んだ受託者が寄付者となります。その他の契約形態なら契約者自身が寄付者となります。 

この方法は、専門家のアドバイスを受けながら計画的に寄付を行いたい場合に適しています。また、生前から寄付の意思を明確にし、確実に実行したい場合にも有効な選択肢となるでしょう。 

遺贈寄付を検討する際の注意点 

遺贈寄付を検討する際には、いくつかの重要な点に注意を払う必要があります。 

まず、寄付の形態によって「寄付者」が誰になるかが変わってくることを理解しておくことが大切です。これは単なる名義上の問題ではなく、寄付の実行力や課税対象に影響を与える重要な要素となります。 

例えば、相続財産の寄付の場合、最終的な決定権は相続人にあります。つまり、亡くなった方の意思が100%反映されるとは限らないのです。自分の想いを確実に実現したいのであれば、遺言による寄付や契約による寄付を選択することが望ましいでしょう。 

また、税制面での影響も考慮に入れる必要があります。遺贈寄付には税制優遇措置が設けられている場合がありますが、その適用条件や範囲は寄付の形態や寄付先によって異なります。専門家のアドバイスを受けながら、自分の状況に最適な方法を選択することが重要です。 

終わりに:遺贈寄付を通じた社会貢献 

遺贈寄付は、単なる財産の移転以上の意味を持ちます。それは、自分の人生の集大成として、社会に対する感謝の気持ちを形にする行為であり、次世代への希望のバトンを渡す機会でもあるのです。 

お世話になった地域社会への恩返し、自分が大切に思う社会課題の解決への貢献、あるいは困難に直面している人々への支援。遺贈寄付を通じて、私たちは自分の人生の価値観を未来に託すことができます。 

もちろん、遺贈寄付はあくまでも選択肢の一つです。重要なのは、自分自身の価値観や人生観に基づいて、最も適切な方法を選ぶことです。 

遺贈寄付を検討する際には、自分自身の生活や家族の将来を見据えつつ、寄付先となる団体の活動内容や信頼性についても十分に調査を行うこと、そして専門家のアドバイスを受けながら、じっくりと検討を重ねることをお勧めします。 

私たちの一つ一つの選択が、より良い社会の実現につながっていくのです。遺贈寄付という選択肢を知ることで、人生の最後の輝きをより意義深いものにできるかもしれません。自分らしい人生の締めくくり方を、前向きに考えてみてはいかがでしょうか。 

参考文献: 
鵜尾雅隆, 齋藤弘道, 芝池俊輝, 樽本哲, 山北洋二, 脇坂誠也(著)「遺贈寄付ハンドブック [改訂第2版] 遺贈寄付を受ける団体や相談を受ける人が知っておきたい大事なこと」 特定非営利活動法人 日本ファンドレイジング協会 2022年3月発行