厳選 厳選

パートナーシップ制度がLGBTコミュニティにもたらした大きな前進と、残された課題についての詳細な分析

日本では2015年に、パートナーシップ制度が導入されました。さまざまな課題点は残っているものの、これは大きな前進の一歩として受け止められました。

ただ、LGBT(lesbian/レズビアン, gay/ゲイ, bisexual/バイセクシャル, transgender/トランスジェンダーの頭文字をとった言葉。以下「LGBT」に統一)の人が終活を考えるうえで、このパートナーシップ制度は意味を持つのかどうかという課題は残っています。

日本において、LGBTがパートナーに財産を残す方法を紹介します。

パートナーシップ制度を利用しても、財産を残すことはできない

パートナーシップ制度は結婚と近い性質を持ち、「同性パートナーと一緒に公営住宅に住める」「家族割が適用される」「家族を対象とした福利厚生の利用ができる」などのようなメリットを持ちます。

しかし、パートナーシップ制度と結婚はイコールではありません。その差異のうちのひとつが、今回取り上げる「相続」です。

日本では結婚をした場合、その配偶者は常に相続人となりえます。相続人として廃除・欠格される要件を満たさない限り、配偶者は第一の相続人となります。子どもがいてもいなくても配偶者は常に財産の相続権を持つことになりますから、相続人としての配偶者の立場は非常に強いものといえます。

しかし、パートナーシップ制度を結んでいたとしても、その相手は「配偶者」とはなりません。パートナーが死去した場合の財産の法定相続人とはなりえないのです。

亡くなったパートナーの財産は、法定相続人たる人しか相続できません。この場合の法定相続人とは、1位子ども、2位親(や祖父母)、3位兄弟姉妹 となります。そのため、「50年間ずっと一緒に暮らしていて、パートナーシップ制度が導入されたのちにはこれを結び、最後まで看取った。パートナーには両親も子どももおらず、2人で過ごしてきた」という人がいたとしても、「没交渉でまったく付き合いもなく、30年以上顔も見たことがなかった兄弟姉妹」などがいた場合は、後者の方が相続権を持つことになるのです。

このような現状を打破しようとする動きもみられていますが、制度が変わるためにはある程度の時間がかかります。そのため老齢期に差し掛かっている人や持病がある人の場合、制度が変更されるより前に自分が旅立つ可能性を踏まえ、相続に関する具体的な手立てを考えておいた方がよさそうです。

そして、その手立てとして「養子縁組」が挙げられます。

「養子縁組」は非常に強力な制度

養子縁組は、相続において非常に強い力を持つ制度です。

養子縁組をした場合、養子となった人は第一の相続人となりえます。パートナーシップ制度を利用する人の場合、(過去に婚歴があったとしても現在は)戸籍上の配偶者がいない状態ですから、その財産は「子ども」となった同性パートナーに相続されます。

現在の日本の法律では、養子と実子の間に相続の権利の差はありません。

養子縁組で「養親」となった人がすでに実子を持っていたとしても、養子縁組をして「養子」となった人の相続権は侵害されません。

「親」となった人に実子が2人いてパートナーを「養子」とした場合、「親」が亡くなったときの財産は、実子1に3分の1、実子2に3分の1、養子に3分の1の割合で引き継がれることになります。たとえ親や兄弟姉妹がいたとしても、子どもがいる限り彼らは財産を相続することはできません(※遺言状があった場合を除く)。

パートナーシップ制度を利用する場合の規約として「20才以上であること」が挙げられます。養子縁組も成人同士であれば戸籍の届出を行うだけで受理されますから、「パートナーに財産を残したい」と考えるのであれば、この養子縁組制度を利用するのがもっとも確実です。

この方法はパートナーシップ制度が導入される前から利用されていたものであり、パートナーに財産を残したいと考える人にとっては非常に心強い味方となるでしょう。「遺贈」という選択肢を選ぶ場合に比べて、税額が安くなるのもメリットです。

ただしこの養子縁組制度は、「年上の方が親となり、年下の方が子となる」という制度でもあります。1日でも早く生まれた方が「親」となり、1日でも遅く生まれた方が「子」となります。このため、「自分は30歳だががん家系に生まれていておそらく長生きはできないので、50歳のパートナーを『養子』として、自分が死んだ後の財産を渡したい」などのような希望は叶えられないのです。

また、養子縁組をすると、「養子」は「養親」の苗字を名乗ることになります。苗字変更にまつわる手続きも煩雑ですし、勤めている人ならば勤務先などに事情を説明する必要があります。また公的機関などがネームロンダリングを警戒し、事情を聞いてくる可能性も高いといえます。

親族間での火種となる可能性もありますし、「たとえば10年後などに、異性婚と同じ権利が認められる同性婚ができるようにと法律が改定された場合はどうなるのか?」などの問題もあります。

養子縁組制度はLGBTの人にとっても非常に心強い選択肢ではありますが、それが持つメリットとともに、デメリットについても把握しておく必要があるでしょう。