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養子縁組をする前に知っておきたい相続トラブルリスク:不満な相続分、実親との対立、遺産隠蔽など

養子縁組と相続の間には深い関係があることが分かりました。ここからは、「それでは養子縁組を組むことによって、どのようなトラブルが起こるのか」について解説していきます。

なお今回の場合は、特筆していない限りは「普通養子縁組」を結んだ場合を想定しています。子どもの健全な成長と福祉の観点から組まれる「特別養子縁組」は、また意味合いが異なるからです。ただし特筆すべき事情がある場合は、特別養子縁組についても触れます。

相続分の不満

現在の日本では、養子は実子と同じ扱いを受けます。つまり、実子A・実子Bがいたところに養子Cが迎えられた場合、子どもたちの親が亡くなったら実子A・実子B・養子Cが3分の1ずつ財産を引き継ぐことになります(※遺言がない場合)また、たとえば、「生涯独身で子どもも持たなかった兄が、普通養子縁組のかたちで、現在の同性パートナーを『養子』にした」という場合なども、不満が生じやすいといえます。

たとえば兄が生涯独身のままに子どもも持たず亡くなった場合、兄の遺産は父母や祖父母などの直系尊属が引き継ぎますが、彼らがいない場合は兄弟姉妹が引き継ぐことになります。しかし養子がいれば、直系尊属や兄弟姉妹に遺産がいくことはなく、養子が遺産を一人で持つことになります。

「祖父母や父母にいった場合は、それでも最終的には私たちが引き継ぐことになる」と兄弟姉妹が考えていた場合、それらの相続が発生しなくなってしまう原因となる養子の存在は、トラブルの火種となるでしょう。

養子縁組の意図の誤解

成人である養親(となる者)と、15歳以上の養子(となる者)で、かつ双方の合意があるのであれば、普通養子縁組は比較的簡単に組むことができます。つまり、普通養子縁組であるなら、養親(養子)となる人に実子がいても組むことができますし、親が存命中であってももちろん成立します。※ただし、実子がいる場合で、かつ養子にしようとしている子が配偶者の連れ子ではない場合、法定相続人の基礎控除額の計算に入れることができる養子は1人だけです。実子がいない場合は2人と決められています。また、連れ子および特別養子縁組の場合は、この定めはありません。このとき、周りの家族に「なぜ養子にしたか」を話しておかないと大きなトラブルになりかねません。

その養子との関係性がどのようなものであるのか、なぜ養子に迎えようとしているのかなどを、丁寧に話すようにしてください。下記でも話しますが、養親が亡くなった後も、養子はおそらく養親側の家族と話し合いの席につく可能性が非常に高くなります。もちろんどれほど丁寧に話したとしてもトラブルが起こる危険性をゼロにすることはできませんが、事前にしっかり話し合うことでこの「話し合いの場」で荒れる可能性を少なくすることはできます。

養子の実の家族との対立

普通養子縁組の場合は、養子と実親の関係は継続されます。そのため、養子は養親が亡くなった場合のみならず、実親が亡くなったときも、法定相続人としての立場が確保されることになります。

円満に普通養子縁組を結べた場合ならばよいのですが、「実親の反対を押し切って普通養子縁組を結んだ」などの場合は、養子と実親のなかで感情的な軋轢が生じることもあります。またそのなかで、実親が養子(となった子)を相続から排除しようとすることもあるでしょう。この場合は実親は遺言で指定することになります。ただし「子」の立場は強力であるため、たとえ実親が、「他家に行った養子には、一円も残さん」と遺言書に書いたとしても、養子は実親の相続において、遺留相続分を請求することができます。

なお、ここでは基本的には普通養子縁組のことをお話していますが、特別養子組の場合は異なります。特別養子縁組を行った場合、実親との関係が切れるため、このような「実親や、実親の遺産をめぐるあつれき」は基本的には怒らないと考えてよいでしょう。なぜなら特別養子縁組で他家の養子となった人は、実親の遺産の法定相続人ではなくなるからです。特別養子縁組で迎えられた養子が持つのは、「養親が亡くなったときに得られる法定相続人の立場」だけです。

遺言書の不在

遺言書がなくても、遺産を人に渡すことはできます。この場合は、法定相続人が、それぞれ定められた割合の遺産を引き継ぐことになります。すでに述べた通り、現在の日本の法律では、実子であれ養子であれ引き継ぐ割合に違いはありません。そのため、「このまま、実子Aと実子Bと養子Cで、3分割をして引き継いでほしい」と願い、また3きょうだいの仲も悪くない場合は、このようなかたちで相続されるでしょう。

ただ、養子に関連する財産の話は複雑です。また、財産を残す側の立場の人が、「実子Aには2分の1を残し、残った2分の1を実子Bと養子Cで分けてくれ」「養子Cには何もしてあげられなかったので、財産は養子Cに受け継がせたい」などのように希望する場合は、遺言書を作成する必要があります。

遺言書は、相続において「絶対に必要になるもの」ではありませんが、遺しておけば家族が戸惑わずに遺産の相続手続きに入れます。特に特殊な財産分配方法を考えているのであれば、遺言書は必要です。

養子縁組の解消と再縁組

「同性のパートナーと普通養子縁組を組んでいたが、恋愛関係が破綻した。新しくパートナーができたので、この人を養子に迎えたい」と考えた場合、元のパートナーと新しいパートナー、そして養親(恋人)の間でトラブルが発生する可能性があります。実子がいない場合は、以前のパートナーを普通養子縁組にしたままだと、その人にまで遺産がいってしまいます。

このようなことを避けるためには、普通養子縁組の解消の手続きをしなければなりません。普通養子の解消は双方の合意が必要ですが、「遺産をひきつぎたいので、別れた後も養子のままでいたい」と養子が希望した場合は、合意に至れない可能性があります。この場合は、家庭裁判所などを経て解消交渉を続ける必要があります。

なお、特別養子縁組では一部のとても特殊な事例を除き、養子縁組の解消はできません。

資産の隠蔽

これは養子縁組に限ったことではありませんが、「他の法定相続人には内緒で、一部の人にだけ財産を渡そうとして、財産の存在を隠蔽していた」などの場合は、大きなトラブルになりかねません。

「父が亡くなったが、晩年になって養子として迎えられたあなたが、父の財産を隠し持っているのではないか」

「自分は父の実子ではなく、血のつながりがない。子どものころから冷遇されてきたが、遺産の面でも、実子がそれを隠匿しているのではないか」

などのような疑いから、けんかになってしまうこともあります。

現在の日本の法律では、遺産を隠すこと自体には法的な罰則はありません。横領罪は、「配偶者や直系血族などがこれをした場合は、その形を免除する」としているからです。また、財産の存在を知っている人が、ほかの人に対して「相続財産があるよ」と開示する必要もありません。さらに言えば、税務署が調査に訪れることもほぼありません。このため、財産の隠蔽が疑われる場合は、ほかの法定相続人たちが力を合わせて、それを調査していく必要があるのです。

「養子」という制度は、相続において大きな影響を与えるものです。養子縁組を組みたいのであれば、事前に周りの家族ともしっかり話し合った方がよいでしょう。