2023年度の税制改正において相続時精算課税制度が変わり、使いやすくなると聞いたことがあるのではないでしょうか?
相続時精算課税制度は贈与税の非課税枠があるものの、相続時に相続財産として加算しなければならないことから、相続税対策として利用している人は少ないかもしれません。
しかし2023年度の税制改正によって制度の一部が変わることになりました。本記事では、2023年度の税制改正として相続時精算課税制度の変更点とまとめてご紹介します。
「相続時精算課税制度」とは
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母などの直系尊属から、18歳以上の子どもや孫などの直系卑属に贈与する場合、2,500万円までの贈与税が非課税になる制度です。また2,500万円を超える分の贈与は、一律20%の税率で課税されるため、高額な贈与を行えばその分節税効果も高くなります。
しかし2,500万円の特別控除枠は贈与財産に対するため、将来相続が発生した場合、相続財産として贈与時点の時価額で組み入れて計算しなければなりません。あくまで制度の名前が示すように、「相続時に精算」する贈与方法となります。
もし相続時精算課税制度を相続税対策として利用するとすれば、将来時価額が上がる可能性が高いものであれば節税効果があるでしょう。例えば、親や祖父母が経営者で、子どもや孫に事業承継させたい場合に利用することができます。
なお相続時精算課税制度と暦年課税制度は併用できないたいため注意する必要があります。暦年課税制度とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間の贈与について110万円以内であれば贈与税がかからない制度です。長期的に活用すれば有効な相続税対策となるため、両方のメリットとデメリットを把握して活用するようにしましょう。
2023年税制改正によって何が変わるの?
相続時精算課税制度は、2023年度の税制改正によって3つの変更点があります。なお施行時期は、2024年1月1日からの適用です。
年間110万円の基礎控除額が追加
今まで暦年課税制度にしかなかった年間110万円の基礎控除額が、相続時精算課税制度を利用しても受けられるようになりました。基礎控除額以内であれば、相続発生時に加算する必要もありません。
また暦年課税制度には、現行制度で3年以内、2023年度税制改正によって7年以内の贈与について、相続財産への加算があります。しかし相続時精算課税制度の基礎控除には生前贈与加算がありません。
年間110万円の基礎控除額が追加されたことで、暦年課税制度と同じような相続税対策を行えるようになるでしょう。
年間110万円の基礎控除額以内であれば申告が不要
相続時精算課税制度を利用する場合、仮に少額であっても贈与税の申告が必要でした。しかし新たに追加された年間110万円の基礎控除額以内であれば、贈与税の申告が必要なくなったため、現行制度よりも使いやすくなったといえます。
災害によって受けた被害金額分の控除
相続時精算課税制度を利用して贈与された財産は、災害によって被害を受けた場合、贈与時の時価額で相続財産に加算されます。しかし2023年度税制改正によって、一定以上の被害が出た場合、贈与時の時価額から被害金額分の控除ができるようになりました。この点も現行制度より使いやくなったといえるでしょう。
小学生でもわかる計算式
相続時精算課税制度は、2,500万円までの特別控除枠があり、2,500万円の特別控除枠を超えた部分は一律20%の税率が適用されます。なお2023年度税制改正によって、年間110万円以内の基礎控除額が追加となります。
例えば、相続時精算課税制度を利用して父親が子どもに5,000万円を贈与する場合、次のように計算します。
1億円-特別控除額2,500万円=7,500万円
7,500万円×税率20%=1,500万円
相続時精算課税制度を利用することで、1.500万円の贈与税がかかることになります。
もし暦年課税制度を利用する場合、次のように計算します。
1億円-基礎控除額110万円=9,890万円
9,890万円×税率55%-控除額640万円=4,799万5,000円
贈与税だけを見れば相続時精算課税制度と暦年課税制度では3倍近くの税額となります。
続いて相続時精算課税制度を利用した場合にかかる相続税を計算してみましょう。相続時精算課税で贈与した金額は相続財産に加算し、すでに納付した贈与税は相続税から差し引くことが可能です。
計算をわかりやすくするために、父親が亡くなって子ども1人が相続するものとします。
・相続税の基礎控除額の計算
3,000+(600万円×1人)=3,600万円
・相続税の課税価格の計算
1億円-基礎控除額3,600万円=6,400万円
・相続税の計算
1,400万円×30%-700万円=1,220万円
・税額控除した計算
1,220万円-相続時精算課税分の贈与税額控除1,500万円=-280万円
相続時精算課税分の贈与税額控除は、控除しきれない金額があれば、その金額分の還付を受けられます。つまり280万円が還付されます。
なお還付を受けるためには、相続税の申告が必要です。
まとめ
2023年度税制改正によって、現行の暦年課税制度のメリットを含めた年間110万円の基礎控除額によって制度が拡充されたことで利用しやすくなります。一方で暦年課税制度は、現行制度で3年以内となっていた生前贈与加算が7年以内となるため、相続税対策としては利用しづらくなりました。なお亡くなる4年から7年以内に100万円の控除額も追加されます。
また相続時精算課税制度は、年間110万円以下であれば贈与税の申告の必要がなく、災害によって受けた被害額分を相続時に控除することもできます。ただし年間110万円を超える部分については、相続時に加算する必要があるため注意が必要です。
なお2023年度税制改正では、相続時精算課税制度や暦年課税制度の他、教育資金の一括贈与と結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の期間が延長されることになっています。教育資金の一括贈与は3年間、結婚・子育て資金の一括贈与は2年間の延長となるため、利用を検討されている人は早めに利用すると良いでしょう。
相続時精算課税制度の施行時期は2024年1月1日以後となるため、相続税対策として利用を考えている人は、利点を活かすために早めに始めることが大切です。また2023年度税制改正によって改正される教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与といった方法も併せて検討することをおすすめします。