2023年度の税制改正で暦年課税制度が変わると聞いて、どのように変わったのか気になるという人も多いのではないでしょうか?
暦年課税制度は、相続税対策の一環として多くの人が活用している制度です。しかし2023年度に税制改正が行われ、制度の一部が変わります。実際に施行されるのは2024年1月1日以後の贈与となります。
本記事では、2023年度の税制改正として暦年課税制度の変更点とまとめてご紹介します。
「暦年課税制度」とは
暦年課税制度は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与のうち、110万円以内の贈与であれば、基礎控除額以内となるため贈与税がかかりません。1年間であれば110万円ではあるものの、10年以上利用すれば1100万円の相続財産を減らせるため、活用する人が多い制度です。
ただし現行の暦年課税制度では、亡くなる前3年間に贈与した財産は、相続時に相続財産として組み入れなければなりません。つまり贈与金額が110万円以下であっても、贈与した人が亡くなった日の年を含めた3年間は、相続税の課税対象です。
例えば、1人に20年間暦年課税制度を利用して110万円の贈与を行っていれば、単純計算すると2,200万円の贈与となります。しかし現行制度であれば亡くなった年に贈与された金額を含む3年以内の贈与財産が相続財産に組み入れられるため、2,200万円-330万円=1,870万円分の相続財産を減らすことができます。
また相続する財産が多い場合、例えば6億円を超えると相続税の税率が55%であり、毎年110万円ずつの基礎控除額以内であっても、相続が発生する時までに相続財産を減らせないこともあるでしょう。その場合、贈与税を負担してでも贈与した方が、結果として相続税が少なくなることもあります。
2023年度税制改正によって何が変わるの?
2023年度の税制改正では、基礎控除額の110万円や贈与税の税率については変わりません。変更点は2点あります。
相続財産への組み入れ期間が7年以内
現行制度では3年以内の贈与財産が相続財産へ組み入れられる期間だったものに対して、税制改正によって7年に延長されました。もし暦年課税制度を活用して相続税対策を行う場合、10年以上前からなど、かなり早い段階から始めなければ効果が少ないといえます。現行制度から考えると使いづらくなったといえるでしょう。
亡くなる4年から7年以内の贈与に100万円の控除額が追加
相続財産への組み入れ期間が3年から7年以内になったことに併せて、緩和措置が設けられました。緩和措置として亡くなる4年から7年以内の贈与について、100万円の控除額が追加されました。贈与された財産の合計額から100万円の控除ができるようになります。
例えば、1人に20年間暦年課税制度を利用して110万円の贈与を行っていて、現行制度であれば亡くなった年に贈与された金額を含む3年以内の贈与財産が相続財産に組み入れられるため、1,870万円分の相続財産を減らすことができました。
しかし2023年度税制改正によって7年以内に延長され、さらに4年から7年以内の贈与に100万円の贈与額が追加されたことで、2,200万円-770万円-控除額100万円=1,330万円分しか減らせなくなります。つまり現行制度から制度が変わることで、減らせる相続財産が440万円分変わります。
施行時期と経過措置
改正暦年課税制度の施行時期は、2024年1月1日以後の贈与となります。しかし税制改正の影響が出るのは、2027年1月2日以降に発生する相続からとなり、経過措置が設けられており、1年を経るごとに延長されます。
生前贈与の加算対象期間は、次のようになります
亡くなった時期 | 生前贈与加算対象期間 |
2026年12月まで | 3年 |
2027年1月から12月まで | 最長4年 |
2028年1月から12月まで | 最長5年 |
2029年1月から12月まで | 最長6年 |
2030年1月から12月まで | 最長7年 |
2031年1月以降 | 7年 |
例えば、2020年から暦年課税制度を利用して110万円の贈与を行った場合で、2026年12月までに亡くなると現行制度と同じ3年間の330万円分が相続財産に組み入れられます。もし2032年であれば、7年間となるため770万円分の相続財産に100万円を控除した670万円が相続財産へ加算されます。
小学生でもわかる計算式
贈与税の税率は「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分され、相続税対策として活用する場合、特例贈与財産の税率になります。特例贈与財産による税率は、贈与した人が父母や祖父母などの直系尊属であり、贈与で財産を取得した人が18歳以上の場合に適用されます。税率については次のとおりです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
例えば、父親から子どもに400万円を贈与する場合、次のように計算します。
400万円-基礎控除額110万円=290万円
290万円×税率15%-控除額10万円=33万5,000円
つまり400万円を贈与した場合、33万5,000円が贈与税となります。
まとめ
2023年度税制改正によって、暦年課税制度を利用した相続税対策の効果が薄れることになります。現行制度であれば3年以内となっていた相続財産への加算が、7年以内となるため、仮に7年前から暦年課税制度を利用して相続財産を減らそうとしても、亡くなる4年から7年以内に控除される100万円のみしか減らせません。
もし暦年課税制度を利用して相続財産を減らすのであれば、7年を超えた期間で行う必要があるため、かなり早い段階から始めるようにしましょう。
なお2023年度税制改正では、相続時精算課税制度や教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置も対象です。教育資金の一括贈与は3年間、結婚・子育て資金の一括贈与は2年間の延長となるため、利用される予定の人は利用すると良いでしょう。
相続時精算課税制度については、暦年課税制度にある110万円の基礎控除が追加され、110万円以内であれば申告する必要もなくなっています。
これから相続財産を減らすために贈与を考えている人は、暦年課税制度の利点を活かすために早めに始めることが大切です。また2023年度税制改正によって改正される相続時精算課税制度や、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与といった方法も併せて検討することをおすすめします。