相続対策は、家族の未来にとって重要なテーマでありながら、日本社会ではなかなか切り出しにくいと感じる人が多いのが現状です。その理由には、日本の文化的背景と家族間の心理的背景が深く関わっています。
文化的背景
1.「死」について語ることへの抵抗感
日本の文化では、「死」は忌み言葉とされ、その話題を切り出すこと自体がタブー視されがちです。終活や相続について語ることは、結果的に命の終わりについて語ることでもあります。そのため、この話題を切り出すことに抵抗感を感じる人が多いのです。
解決策: この抵抗感を乗り越えるためには、「死」や「終わり」ではなく、「未来」や「継続」について話すという視点の転換が有効です。例えば、「家族のために何ができるか」「家族が安心して生活できるようにするには何が必要か」など、前向きな視点から話題を切り出すことが可能です。
2.相続の話題が家族間の争いを生むとの懸念
日本社会では、相続の話題はしばしば家族間の争いを引き起こすという認識が広くあります。そのため、相続対策を提案すること自体が争いの種をまく行為と捉えられ、避けられる傾向にあります。
解決策: 争いを避けるためには、適切なコミュニケーションと日頃からの信頼関係の構築が重要です。相続対策は、公平さと透明性を保つことで、家族間の誤解や争いを防ぐことができます。また、家族全員が参加し意見を共有することで、各家族が望む結果を理解し合うことができます。
家族間の心理的背景
1.配偶者や親の遺産への依存感
経済的に配偶者や親に依存している場合、相続について話すことは、その依存関係を危ぶむことにつながります。これは特に、夫が主たる経済的支えである場合や、親からの援助に依存している成人の子どもたちにとって共通の問題となります。
解決策: 依存感を乗り越えるためには、個々の経済的自立の推奨と、経済的な援助に対する感謝の表現が重要です。相続を受ける側に金融知識がほとんどない、という知識量の格差も埋めていく取り組みが有効です。また、相続対策の一部として、遺産の一部を子育て・教育・キャリア開発の支援に使うことを提案することも有効です。
2.配偶者や親の意志を尊重しすぎる慎重さ
多くの場合、配偶者や親は自身の財産について、自分の意志を最大限尊重されることを望みます。そのため、相続対策の話題を家族から切り出すこと自体が、その意志を軽んじるかのように感じられるかもしれません。
解決策: こうした感情を尊重しつつ、対話を促すためには、配偶者や親の意志を最優先に考えるという姿勢をまず明確に示すことが有効です。その上で、相続対策が彼らの意志を具体的な行動に移す手段の一つであると説明し、その理解を求めることが大切です。
3.自己のエゴからくる言い出しにくさ
自己の利益を追求すると思われるかもしれない、お金にがめついと思われるかもしれない、という恐れから相続対策の話題を切り出すのをためらうこともあります。
解決策: この問題を解決するためには、相続対策の話題を切り出す際に家族全体の利益や公平性を強調することが重要です。そして、相続対策を疎かにすると国に財産を没収されたり相続税が高くつくなど、せっかく配偶者や親が築いた財産を不必要に支払うもったいない状況にも陥ります。その上で、自己の意見を述べる際には、親や配偶者の意志を尊重し、家族全員が満足できる結果を追求するという姿勢を明示することが重要です。
以上のように、文化的背景や家族間の心理的背景を理解し、それに基づいて対話を進めることで、親や配偶者に相続対策を切り出しやすくなるでしょう。慌てずにじっくりと話し合いを進める心の広さを持ち合わせて取り組んでいきましょう。