厳選 厳選

遺産相続における法的ルールの理解が不可欠 – 「法定相続人」の特定に困難が伴う際の対応策を徹底解説

人が亡くなったとき、有効な遺言書がなければ法定相続人が法の定めに従って亡き人の遺産を分割することになります。しかし場合によっては、「法定相続人が分からない」という状況に陥るケースがあります。

ここではこのような状態になったときの対応方法について解説していきます。

法定相続人がわからない問題

遺産は、有効な遺言書がない場合は、法律の定める割合によって法定相続人で相続することになります。法定相続人は「配偶者」「子ども(や孫などの直系卑属)」「親(や祖父母などの直系尊属)」あるいは「兄弟姉妹(やその子ども、甥・姪まで)」であるため、通常はすぐに法定相続がだれであるかが分かるでしょう。ただ、「離婚歴がある。前妻の子どもはいるはずだが、現在は没交渉となっている」「うっすらと父親から『昔子どもを認知した』と聞いているが、だれだか分からない」「親族のだれとも連絡を取っていないが、兄がいると聞いた」などのようなケースもあります。また、非常に珍しいケースではありますが、「そのような人がいることをだれも知らなかった法定相続人が、突然現れた」という話もあります。

相続に関しては、「相続する人」が全員出そろう必要があります。なぜなら相続に当たっては、「遺産分割協議」を行う必要があるからです。遺産分割協議とは、「遺された財産を、非相続人がどのようにして分けていくか」を協議することをいいます。この遺産分割協議は、遺産を受け継ぐ人全員で行わなければなりません。

つまり、「前妻との子どもで、もう何十年も連絡を取っていない子ども」であっても、「認知はされているが、だれひとりとしてその存在を知らない子ども」であっても、「親族のだれとも連絡を取っていない兄」であっても、彼らが法定相続人にあたる以上は、彼らを加えて遺産分割協議を行わなければなりません。「その人がいなかったから、いる人全員で決めた」ということは許されませんし、それをした場合は、その遺産分割協議は無効となります。

「相続に関する争い」「法定相続がだれだか分からないときに起こる争い」というと、多くの人は「今までだれも知らなかったのに、財産目当てでいきなり現れた人」を想像するでしょう。

たしかにこれも非常に問題ではあるのですが、「なんらかの理由で没交渉になったが、法定相続人ではある」という立場の人の場合、そもそも「その人が亡くなったこと」自体を知らないということもよくあります。この場合はその人からの連絡が来ることは当然期待できませんから、遺された家族がなんとかしてその人を探し出し、話し合いに参加してくれるように打診しなければなりません。

家系図を用いる/作成して探す

もし家系図があるのであれば、それを使えば法定相続人の名前や存在を確認しやすくなるでしょう。そうではない場合は、故人の戸籍をさかのぼって法定相続人を探していかなければなりません。日本は戸籍文化ですから、時間と手間をかければ、法定相続人の存在を確認することはできます。

死亡した人の除籍謄本を取る

この「戸籍から法定相続人を探す」は、まずは死亡した人の除籍謄本(死亡記載)を取ることから始まります。死亡した人の本籍地に足を運んで、これを取ります。なお、「本籍地すら分からない」という場合は、住民票から辿ることになります。

昔の戸籍を辿っていく

除籍謄本をとると、そこには「その戸籍を取る前に存在した戸籍」が書かれています。この「古い戸籍」を取り直すと、そこにはさらに「古い戸籍」の情報が載っています。この「古い戸籍」を順番にさかのぼり、出生時の戸籍に行きつくまで調べることになります。

なお、100年以上前の戸籍までたどることが必要になる場合もあります。

法定相続人を判断する

「戸籍のさかのぼり」が終われば、法定相続人がだれだかが分かります。戸籍には出生した子なども記載されていますから、万が一、「遺された家族がだれも知らなかった子ども(=法定相続人のうちの1人)」がいた場合はそれが分かります。また、「20年前に妻を亡くしてから独り身だと思っていたが、実はだれにも言わずに、恋人と入籍していた」などのようなケースでも、戸籍をたどることでそれが分かります。

なお、このようなステップを踏む途中で、「法定相続情報一覧図」の作成を検討すると後々便利になります。これは、相続において必要となる情報をまとめた一種の家系図のようなものであり、これを利用することで金融機関での名義変更などがスムーズに行えるようになります。これが一枚あれば、戸籍一式をすべて持参する必要がなくなるのです。ただしこの「法定相続情報一覧図」を作成するためには、故人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本(除籍謄本)が必要ですし、故人の住民票の除票が必要です。また、相続人全員の戸籍謄抄本も必要なうえ、申し出をする人の身分証明書も必須です。それ以外にもほかの書類が必要になることがあります。

専門家に相続人調査を依頼する

戸籍をたどっていくことで、法定相続人の「存在」を確認できることは上で述べた通りです。しかし「存在は確認できたが、相手に連絡する術がない」「相手の居所が分からない」という場合もあるでしょう。そのようなときは、下記の手順を取ります。

1. まずは戸籍の附表を請求する。相続人の戸籍謄本を利用して、戸籍の附表(その戸籍に入ったもしくはつくられてから現在までの住所が記されたもの)をとり、相手の住所を把握する
2. 把握した住所に、相続が発生したことを記した手紙を送る。電話番号も記しておく。
3. 連絡をしてもなお相手が対応しないもしくは住所が特定できないあるいはそもそもその住所にすでにおらず行方不明になっているなどの場合は、「不在者財産管理人(行方不明になった人の代理となる役割の人)」を選出する
4. 不在者財産管理人が書類をそろえて、手続きを行う。かかる費用は50万円~100万円程度

なお、「行方不明であり、生死も不明である」という場合は、「失踪宣告」という方法をとることもできます。これは家庭さん番所での手続きを必要とするものですが、認められれば、「その人は死亡したもの」とみなされ、この法定相続人を遺産分割協議から除くことができます。ただし、特別失踪(山や海での事故で亡くなったと推測される場合)でも1年、それ以外の普通失踪の場合は7年が経たないと認められません。また、費用は30万円程度かかります。

「法定相続人と相続」を考えるうえで特に重要になるのは、「たとえ何十年間にもわたって没交渉であっても、遺された家族(ほかの法定相続人)のだれひとりとしてその人の存在を知らなくても、またすでに遺産分割協議を終えた後であっても、その人が法定相続人である限り、その立場は失われない」という点です。つまり、「知らなかった」「連絡が取れなかった」ことを理由として、その人を法定相続人から除くことはできないということです。また、たとえ遺産分割協議を終えた後であっても、その遺産分割協議は無効となり、やり直しをしなければならなくなります。法定相続人の立場は非常に強いものであることが、ここからも分かります。

このようなトラブルを避けるために、人が亡くなった場合は、まずはその人の戸籍を出生時までさかのぼるようにしてください。そこで「今までだれも知らなかった子ども」などの存在が明らかになるかもしれません。