「故人の遺志は尊重したいが、遺言書の内容に納得がいかない」という場合もあるでしょう。
そのようなケースのとき、家族(法定相続人)がとれる手段があるのか、あるとしたらどのようなものなのかをケース別に紹介していきます。
解決方法その1:法定相続人同士での話し合いで解決する
遺言書の内容:
配偶者はすでに他界している。子どもは3人いて、「長女に家を渡し、長男に預貯金を渡し、次男に別のところにある土地を残す」となっていた
家族の考え:
長女「自分にはすでに建てた家があるので、預貯金の方がありがたい」
長男「現金には余裕があるので、活用できる土地が欲しい」
次男「土地をもらっても使いどころがないので、今の賃貸物件を引き払って実家がほしい」
法定相続人である3人全員が「遺言書の内容に納得がいっていない」かつ「具体的な分割方法の希望があり、全員の希望がぶつかり合わない」というような状態のときは、話し合いで解決することができます。遺言書に記されていたとしても、法定相続人全員が納得のできる決断を出せたのであれば、後者の方が優先されます。
解決方法その2:遺留分を請求する
遺言書の内容:
配偶者がおらず、子どもは2人いる。しかし遺言書には、「長男には遺産は渡さない。すべてを次男に残す」となっていた。
家族の考え:
長男:納得がいかない。自分にも遺産をもらう権利がある。
次男:故人の遺志が「自分に」ということであったのなら、それを尊重したい
このケースでは、基本的には故人の意思が尊重されます。ただし、長男は直系卑属にあたりますから、遺留分を主張することができます。
子どもが相続できる遺産の割合は法定相続で分ける場合は同じです。年齢によって変わることはありませんし、また非嫡出子であっても変わりません。
またこの場合、全体の遺留分は2分の1となります。
【遺書がない場合の遺留分の割合】
長男:2分の1×2分の1=4分の1
次男:2分の1×2分の1=4分の1
【遺書があり、「すべてを次男に残す」とされていた場合の遺留分割合】
長男:2分の1×2分の1=4分の1
次男:2分の1×2分の1=4分の1(遺言によって直接利益を得たので遺留分は請求できない)
たとえば、財産が1億円あった場合、法定相続の通り分けるなら
長男:5000万円
次男:5000万円となります。
しかし遺書があった場合、長男・長女が遺留分を請求した場合は
長男:2500万円
次男:5000万円+2500万円万円
となります。
なお遺留分は、あくまで「遺留分を受け取れる人が、その権利を主張して初めて得られるもの」です。たとえば、「主張すれば遺留分をもらえる立場にあるが、故人の遺志を尊重したいので遺留分は主張しない」という場合は、遺留分を得ることはできません。
解決法その3:公序良俗に反するとして訴えを起こす
遺言書の内容:
配偶者がいて、子どもも3人いるが愛人もいた。遺言書には、「すべての遺産を愛人に渡す」となっていた。
この場合、問題は非常に複雑です。
基本的には遺書の内容は尊重されますし、財産を他人に渡すことは罪ではありません。
また、愛人関係にある相手に残すとした場合であっても、「故人亡き後の愛人の生活の基盤を守るため」と判断されたのであればこの遺言書は有効と判断されます。
遺言書が有効であるとされた場合、家族にできるのは、上記で述べた「遺留分を請求する」という方法です。
対して、「愛人の生活の基盤を守るためではなく、愛人の歓心を買うためにこのような遺書を残した」という場合は話が変わってきます。たとえば、愛人の方はもう関係を終わらせたいと考えているのに、故人の方が愛人を引き留めるために「私が死んだら君に遺産がいくようにするから」などと告げて行動に移した……という場合です。
このようなケースでは「公序良俗に反する行動である」と判断され、遺言書の内容が無効とされます。遺言書が無効になった場合、法定相続分通りの分割が行われます。
このような内容の遺言書であった場合、一言で「これは無効/有効」とはいえません。裁判を経て、個別に判断されることになります。実際の裁判でも、遺言書が無効と判断されたケースもあれば、有効と判断されたケースもあります。最高裁判所にまでいった事例もあり、非常に長く争うことになる場合も少なくありません。
しかし家族としては、「お金の話だけど、それをメインにしているわけではない。母を無視して子どもを苦しめ続けた父だったし、その原因の一端となった愛人が死後にまで父の庇護を受けるのは耐え難い」という心情にいたることはごく自然なことです。そのため、時間がかかっても裁判で白黒をつけたいと考える人は少なくありません。
遺言書の内容に納得がいかない場合、それを解決する方法を事前に知っておくことは非常に重要です。