自分の両親や配偶者が亡くなった場合、相続のことを考えなければなりません。
ここではこの「相続」を取り上げて、
・相続の選択肢の概要
・相続放棄をする場合に必要なもの
・成人と未成年者の違い
※自身が相続人となるケースとして、両親や祖父母などの直系尊属、また兄弟姉妹、不幸にして子どもの死亡などがあります。ただここでは分かりやすくするために、特段の必要がない場合は、「父親がすでに亡くなっていて、今回母親が亡くなった。兄弟姉妹は、自分を含めて3人いる」という状況を想定してお話していきます。
まずは知っておきたい相続の3つの種類
ここでは主に相続放棄をする場合について解説していきますが、その前にまずは、「そもそも相続の種類にはどのようなものがあるか」について解説していきます。
などについて解説していきます。
1.単純承認
「亡くなった母親の、プラスの遺産もマイナスの遺産もすべて引き継ぐ」という選択肢をいいます。特に手続きをしなかった場合、相続人はこの単純承認を行ったとみなされます。また、相続財産を使った場合(一部だけを使った場合も含まれる)なども、この単純承認にあたると考えられるのが原則です。
2.限定承認
「プラスの遺産とマイナスの遺産があるとき、プラスの遺産の範囲内でマイナスの遺産を引き継ぐ」というのが、この限定承認です。
単純承認の場合は、プラスの遺産よりもマイナスの遺産が多かった場合、相続人がそのマイナスの遺産の分だけ経済的なダメージを受けます。また下記で取り上げる相続放棄を選んだ場合、プラスの遺産が多くても引き継ぐ遺産がゼロになります。対してこの限定承認の場合、「マイナスの遺産が多くても受け継ぐ財産がゼロになるだけで、プラスの遺産の方が多ければそれを受け取れる」というメリットがあります。
ただしこの限定承認は、それが認められるまでの間に手間も時間もかかります。
3. 相続放棄
「プラスの遺産もマイナスの遺産も、どちらも相続をしない」という選択肢です。
一般的にこの相続放棄は、マイナスの遺産の方がプラスの遺産よりも多いと判断される場合に選ばれるものです。ただそれだけでなく、「最後まで母の面倒を見てくれた姉の遺産の取り分を多くしたい」「父母と非常に折り合いが悪かったので、死後もその財産を引き継ぎたくない」という場合にもこの選択肢が取られることもあります。
相続放棄を行うと、プラスの遺産もマイナスの遺産も両方とも受け継がないことになるので、相続する財産はまったくのゼロになります。また、放棄した財産は、ほかの2人に引き継がれます。
詳しくは後述しますが、相続放棄ができるのは、「相続人の死亡後あるいは自分が相続人であることを知ってから3か月以内」と定められています。
受け継ぐ財産 | 手続き | |
単純承認 | マイナス~0~プラス、いずれも可能性あり | もっとも簡単。特に手続きをしなければこれになる |
限定承認 | 0~プラス | 非常に煩雑、時間がかかる |
相続放棄 | 0 | 3か月以内に手続きが必要 |
基本的には「プラスの遺産が多いか、それともマイナスの遺産が多いか」によって相続の方法を決めるべきですが、実際にはここに「感情」「煩雑さ」も加味して考えられることになるでしょう。
相続放棄を申し立てることができるのはだれ?
ここからは、相続放棄をする場合のやり方や注意点について取り上げていきます。
相続放棄の申述者(相続放棄を申し立てること)ができるのは、原則として本人のみとされています。
ただし、下記の場合は例外です。
・特定の資格を持った人に依頼する……弁護士は、相続する本人に代わり、相続放棄の申請を行えます。なおこの場合は、弁護士と本人の間で委任契約を交わす必要があります。
・相続人が未成年である……相続人が未成年(※2022年4月1日以降は18歳未満)である場合は、その保護者が法定代理人となり、相続放棄を申し立てることができます。
・相続人が認知症である……認知症を患っている人の場合、自分の判断で相続放棄を行うことはできません。これが可能になってしまうと、周りの人が認知症の人をたぶらかすなどして、相続放棄をさせることができてしまうからです。このため、認知症を患っている人の場合は、選任された成年後見人が相続放棄の手続きを行うことになります。なお、「だれを成年後見人にするか」の最終判断は、家庭裁判所が行います。
もうひとつ特例として「特別代理人」が選ばれるケースも紹介しておきます。これは、たとえば「亡くなった人の配偶者と、子どもがいて、子どもが未成年であり、かつプラスの財産が多い」という場合などに適用される可能性のあるものです。
特別代理人について
A…亡くなった父親
B…Aの配偶者
C…Aの相続人となる子どもで、未成年
遺産3000万円とする。特に遺言書などがなければ、Bが1500万円、Cが1500万円を相続することになる。
この場合、BはCの代理相続人となります。しかしここで、「B自身は財産を放棄しないが、Bは代理相続人の権限をもってCに財産を放棄させる」とした場合、Bは1人で3000万円の遺産を引き継げることになってしまいます。
そこで出てくるのが、「特別代理人」という考え方です。
これは、「BとCで互いの利益が相反するとき(『利益相反行為』)、子どものために特別代理人を選出しなければならない」というものです。特別代理人は、子どもが不利益を被らないようにするために動く者であり、家庭裁判所が最終的にだれを選任するが決める者でもあります。
なお、ここではCは一人っ子と想定しましたが、兄弟姉妹がいる場合はそれぞれに特別代理人が立てられます。なぜなら兄弟姉妹がいた場合、「子ども(たち)が引き継ぐ1500万円が兄弟姉妹の数で頭割りされるため、彼らもまた、利益相反の関係となるからです。
申し立ての期間や申し立てる先、費用の詳細、書類などについて
相続放棄が行える期間は、「自分が相続人であったと知ったときから3か月以内」と決められています。これを超えると単純承認とみなされる可能性が非常に高いので注意しなければなりません(※特別な事例があると認められる場合は除く)。
相続放棄を申し立てる先は、亡くなった人の最後の住所の家庭裁判所と決められています。つまり、この場合は、「父親の最後の住所があったところの家庭裁判所」となります。
相続放棄にかかる費用は、申述人1人に対して収入印紙800円と、連絡用の郵便切手代金です。ただ、「相続放棄の仕方が分からない」「専門家に相談したい」などの場合は、当然専門家への相談費用が必要になるので注意しましょう。ちなみに弁護士への相談費用は弁護士事務所によって異なりますが、1時間で10000円程度が多いといえます。
相続放棄に必要な書類は、
1.相続放棄の申述書
2.亡くなった人の住民票除票もしくは戸籍附表
3.相続人本人の戸籍謄本
4.上記で述べた収入印紙および切手
5.亡くなった人が死亡したことを示す戸籍謄本
が最低限必要です。ただし、亡くなった人との関係性によって必要とされる書類が追加されることもあります。
相続放棄の補足事項
最後に相続放棄に関する補足事項について解説していきます。
まず、相続に関する疑問として非常によく上がってくるのが、「財産状況が分からない」というものです。実際、申述書には「相続財産の概略」を書く欄があります。
ただし相続放棄を選択する場合、ここは「不明」としても問題がありません。相続放棄をすれば、プラスの遺産もマイナスの遺産もゼロになるため、遺産が分からなくても問題ないのです。
ちなみに、「財産の状況が分かってから、相続放棄が単純承認か限定承認か決めたい」という場合は、財産調査を行う必要があります。ただしこれは非常に手間がかかるうえに、個人では難しいケースもあるので、その場合は専門家に依頼することになるでしょう。
相続放棄後の処理についても考えていきましょう。
「自分が財産を管理していたが、相続放棄をした」という場合は、ほかの相続人にその遺産を引き継ぐことになります。なお、相続放棄をした後に債権者から負債の返済を求められた場合は、相続放棄をした旨をはっきり伝えましょう。