個人の資産に関する国の捉え方や税制は、時代とともに移り変わっていっています。そのため、資産に関わる行動を起こそうとした場合、常に最新の情報にあたるようにしなければなりません。
今回は、令和5年度の税制改正の対象とされた5つの税制とその意味について解説していきます。
NISA制度の拡充と恒久化
NISA(ニーサ)は、もっとも身近な投資制度のうちのひとつです。
投資を行った場合、通常はそこに税金(20パーセント)が課せられます。しかしNISAは、定められた一定金額の範囲で購入した金融商品から得た利益については、税金がかからないというスタイルをとっています。
これには「つみたてNISA(長期的な投資を前提とするもので、初心者向け)」と「一般NISA(自由度が高く、種類が豊富)」の2通りに分けられています。
令和5年度より前は、
・選べるのはどちらか1つ
・つみたて式の場合は年間の投資上限額が40万円、一般タイプは120万円
・非課税の保有期間は、前者は20年、後者は5年間
と定められていました。
しかし令和5年度からは、
・併用ができる
・つみたて式の場合は120万円まで、成長投資枠(※一般NISAの特徴を受け継いだもの)は240万円
・非課税の保有期間の撤廃
というかたちになります。また、非課税の保有限度額が定められました。
スタートアップ支援の創設
「自己資金による創業を応援したい」「まだ創成まもない段階だが、急激な成長が見込める企業を応援したい」という考え方を支援するのが、「スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設」です。
これは、簡単に言うと、「自己資金によって創業する企業や、急激な成長が見込める創生間もない企業への再投資を行う場合、その再投資の譲渡益には課税をしないよ」という制度です。
これによって、新しい企業は投資家を探しやすくなりますし、また投資家も利益を得られやすくなります。
ちなみにこの「譲渡益」の上限は非常に大きく、20億円までの利益ならば課税対象とされません。また初期段階への投資の場合の外部資本用件(特定の株主やそのグループの割合)の制限も、6分の1以上から20分の1以上に引き下げられました。
さて、上記と深い関わりのあるものとして、「エンジェル税制」というものがあります。
これは、上で述べた「スタートアップ時に投資を行った個人の投資家に対する(優遇の)税制措置」とでもいうべきものです。
令和5年度の税制改革によって彼らが利益面での税制の優遇措置を受けられることはすでに述べた通りですが、それ以外の点でも今回の改革は彼らにメリットをもたらしました。それが、「申請の簡略化」です。
令和5年度より前は、エンジェル税制を利用するためには非常に多くの書類が必要になりました。場合によっては15もの書類が必要になっていたのですが、令和5年度の税制改革によってこのうちの3分の1が不要となりました。また、必要な書類も簡素化され、よりスピーディーに、より分かりやすく、申請を行うことができるようになったのです。
投資を行わない人の理由として「面倒だから」が挙げられます 。今回の税制改正は、そのような面倒さを(100パーセントではないにせよ)解消するための改正でもあるといえるでしょう。
ストックオプション税制の拡充
ストックオプションとは、「その企業に所属する従業員が、自分たちの会社の株を前もって一定の金額で購入することができる権利」のことをいいます。この権利を行使して得た自社株を、自社株が上昇した時点で売ることで利益を得ることができるもので、従業員の資産形成(とそれに伴う従業員の帰属意識の上昇や、優秀な人材の確保)に極めて有用な制度です。
ただし、ストックオプションにはこれまで「権利を行使できる期間」が設けられていました。「権利を与えると決めてから、2年~10年以内をストックオプションの権利更新期間とする」と定められていたのです。つまり、権利を獲得した後に得た株を直後に売り払うことはできませんし、10年を超えてから権利を行使することもできませんでした。
しかし令和5年度の税制改革によって、このストックオプションの権利行使期間も改訂されました。
設立後5年度未満の未上場企業に関しては、ストックオプションの権利行使期間が緩和されて、「2年~15年の間であるならば、権利を行使できる」とされたのです。
極高水準所得の負担適正化
日本では原則として、「所得が多ければ多いほど、負担しなければならない税金が多くなる」という状況があります。これは「(税制の)公平の原則」に基づくもので、高所得者層はそうではない層に比べて税金の負担が重くなります。
令和5年度の税制の改革においては、「超高所得者層(『極めて高い水準の所得』者層)に対しては、特別な所得税制を設ける」と定められました。
そして、「通常の所得税額よりも、合計所得金額―3,3億円の特別控除額×22.5パーセントが上回った場合、差額分を申告して納税しなければならない」と定められたのです。
ちなみに、追加負担が生じる金額の目安は、約30億円とされています。
ほとんどすべての人にとって、「30億円」という数字は縁の遠いものです。そもそも「特別控除額」の3.3億円でさえ、一般の給与所得者層にとっては縁のない話だと思われます。ただこのような超高所得者層にかせられるであろう税金が、それ以外の人の生活を支える土台のうちのひとつとなることは間違いありません。
なおこの改革は令和5年度に施行されますが、それが適用されるのは令和7年の所得税からです。
特定非常災害にかかる損失の繰り越し控除の見直し
日本は地震大国だといわれています。日本に住んでいる以上、地震と無縁でいることはできません。また、台風などによく見舞われる国でもあります。
近年に起きた特に大きな災害として、阪神・淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、台風19号、2020年7月豪雨が挙げられます。これらは現在「特定非常災害」として位置づけられていますが、今後もまたこのような特定非常災害として扱われる災害が起きる可能性があります。
令和5年度の税制改革では、この「特定非常災害にかかる損失と、その控除」についても目が向けられました。
令和5年度より前も、「特定非常災害によって住宅や家財道具が被害にあい、1年間で控除しきれないほどの損害を受けた場合は、それを繰り越し控除できる」という制度が作られていました。ただし今までは、この期間は3年間までとされていました。
しかし令和5年度の改正によって、条件を満たした場合はその期間が5年に延ばされることになりました。
特定非常災害に係る損失の繰越控除の制度は、もともと、「被害を受けた人(事業者)が、早く立ち直ることができるように」と考えて作られた制度です。条件はあるものの、損失の繰越控除期間が延びたことは、このような考えをさらに発展させたものだといえるでしょう。
令和5年度の税制改正は、私たちの生活にも少なからず影響を与えます。自分たちの身を守り、無駄のない動きをするためにも、知識を蓄えておくことは重要です。
※本原稿は、2023年の8月初旬に書いたものです。税制やそれに関係する話は、時期によって多少変わることがあります。実際に動く場合は、必ず最新の情報にあたるようにしてください。