遺言については、テレビドラマで弁護士が相続人を前にして遺言書を読み上げるシーンなどがよくあり、皆様にもおなじみかもしれません。
遺言書を書く理由は様々ありますが、ご本人のためと言うよりも、残された配偶者やお子様あるいはご両親、ご兄弟たちが、相続財産をめぐって争うことが無いようにという気持ちから作成される方が多くおられます。ご本人のお気持ちを伝える方法として、遺言はとても相手の心に響くものと言えます。
遺言には、普通方式と言われるもの3種類と特別方式といわれるもの4種類があり、法律でそれぞれ厳しく手続きが決められています。
以下では、遺言のうち、これから皆様が作成される可能性が高いと考えられる普通方式の遺言、具体的には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類について解説してゆきます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文(但し財産目録という遺言の対象になる財産を具体的に記載した部分を除きます)、日付、氏名を自ら書いて、捺印することによって作成する遺言書です。
自筆証書遺言のメリットデメリット
自筆証書遺言は、自分で便箋などを利用して書くことができ、後で説明する公正証書遺言と違い費用もかからず、他人に内容を知られる心配もありません。
このように書くと、自筆証書遺言は良いことずくめと思われるかもしれませんが、デメリットももちろんあります。
デメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
・自筆証書遺言が法律で定められたルールを守っておらず無効になる恐れがあること。
・遺言書を紛失してしまう恐れがあること。
・相続開始後(つまり遺言者が亡くなった後)、遺言書を発見した相続人などが遺言書を改ざんする恐れがあること。
・相続開始後、家庭裁判所の検認(家庭裁判所で遺言の内容を明確にして、偽造や変造を防止する手続きです)を受ける必要があること。(なお、2020年7月10日から全国にある法務局という役所で自筆証書遺言書の保管制度が始まっており、この制度を利用した場合、家庭裁判所の検認は不要です)
自筆証書遺言の作成方法
自筆証書遺言を書いておきたいと思われた方は、まずご自身の不動産や預貯金、株式などの財産を確認し、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳、株式の取引残高報告書などの資料を手元に集めましょう。
それから、どの財産を誰にあげるかを慎重に考えましょう。財産をあげる相手は、親族にこだわる必要はなく、これまで親切にお世話していただいた第三者などでも全く問題ありません。
自筆証書遺言を作成するための遺言書キットが数多く販売されていますので、それを利用するのも良いと思います。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、全国にある公証役場で公証人という法律の専門家が作成する遺言書です。
公正証書遺言のメリットデメリット
公正証書遺言を作成する場合、本人は自ら遺言書を書く必要はなく、公証人が本人の意思に基づいた遺言書を作成します。本人が身体的問題などから公証役場まで出向くことができない場合でも、自宅や病院、入所している施設などまで出張してもらうこともできます。
公正証書遺言は、公証人によって作成されるので、法律で定められたルールに違反して無効になるということはまず考えられず、また作成した遺言の原本は公証役場で保管しますので紛失の恐れがありません。さらに、相続開始後、家庭裁判所の検認が不要ですし、公正証書に対する信頼度が高いので手続きがスムーズに進むということもあります。
公正証書遺言のデメリットとしては、公証人の手数料(遺言書に記載する財産の価額によって異なってきます)がかかることと、作成の際証人2人の立ち合いが必要なため、遺言の内容を第三者に知られてしまうことなどがあります。
公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言を作成したいと思われた方は、まず自筆証書遺言と同じようにご自身の財産を確認し、資料を手元に集める必要があります。
その後、誰に財産をあげたいかを考えた上で、原案(決まった形はありません。自分の考えをまとめたメモ書きでよいです)をつくり、必要書類(本人の印鑑証明書、財産の資料などですが、遺言の内容によって異なる場合がありますので事前に公証役場に電話で確認しましょう)をそろえて、公証役場に相談にゆきます。
そして、公証人と打ち合わせて、作成日を決めその日に公証役場に出向く(出張してもらうこともできます)という流れになります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、本人が遺言書を作成し(自筆証書遺言と異なり、手書きの必要はなくワープロソフトで作成してもかまいません)、署名捺印して封筒に入れて封印し(封印にも遺言書に押したものと同じ印鑑を使います)、これを公証人及び証人2人以上の前に提出して、公証人に本人の遺言であることを証明してもらう遺言書です。
秘密証書遺言のメリットデメリット
秘密証書遺言のメリットは、誰にも知られることがないという点にあります。
しかし、これ以外にメリットと呼べるものはあまりなく、逆に自筆証書遺言と同じように、法律で定められたルールを守っておらず無効になる恐れがありますし、遺言書自体を公証役場で保管することはありませんので紛失の危険もあります。現実にも利用される方の少ない方式です。
秘密証書遺言の作成方法
秘密証書遺言を作成したいと思われた方は、遺言書を作成し封印したうえで、公証役場で公証人と証人2人以上の前に提出し、公証人が封紙に提出した日付、遺言者の申述(自分の遺言であること及び氏名、住所)を記載し、公証人、証人、本人が署名し押印するという流れになります。そして、本人は封印された遺言の原本を持って帰ります。
以上、3つの方式の遺言について説明してきましたが、ご本人が安心できること、財産を引き継いだ相続人などがスムーズに手続ができることなどを考えますと、費用はかかりますが、公正証書遺言をおすすめいたします。